吉林人造石油(1) ~満州編2-1~

吉林駅 13. 吉林人造石油準社員時代
吉林駅
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赴任先吉林に到着する

私達3人は話に聞いた匪賊に会うこともなく、やがて夕刻吉林駅に到着した。
列車が鮮満國境図們駅を出た途端、風景が一変した。
それは北鮮と違い広々とした平野と見渡す限り、畠と水田であった。
畠は満人が耕作する高粱と朝鮮人の水田ばかりの連続で遥か彼方に小高い山が見えるこの風景に私は話しに聞く満洲へ来たのであるということを強く感じたのである。

吉林駅では、私達の到着時刻を吉林人石本社に図們駅から打電しておいたので總務課より出迎えが来ており駅前ホテルに案内され、私達3人は満洲到着第1日目をこのホテルで迎えたのであった。

翌日又総務課より迎えの人が来て私達3人は市内の目抜通り在る、人石本社へ出頭し、社長に会いその後総務課で辞令を受取った。
私の辞令には吉林人造石油(株)準社員を命じ、月俸85円※注1を給すとなっていた。
人石の社員階級は、社員、準社員、雇員、傭員の4階級になっており、渡辺、江別の2人は雇員の辞令で俸給は幾等であるかは知らない。

吉林人造石油襟章

吉林人造石油襟章

それと私だけに左図注:当ブログでは上図)のような襟章を辞令と共に手渡された。
バッチ(襟章)は一寸図案が変ったもので銀縁の中に眞紅のキラキラと光る6角形の硝子玉がちりばめた物であった。

又俸給85円は北炭でも大学出の初任給50円に比較すれば高給の方で、これに在満手当、僻地手当、がプラスされ95円となり、これは北炭でも所長級の月収であった。
私達3人は次に案内された所は、目下吉林駅近くに建造中の石油液化工場であった。
この工場施設はまだコンクリートの建物の段階で、広い敷地内で土砂や資材の搬入、搬出に10数台のトラックが濛々(モウモウ)と砂塵を巻き揚げて走り廻っていた。
案内人の説明では建物内部の機械類は全部ドイツから輸入することになっているが目下ドイツは欧洲各國相手に戦争中で、そのため、ドイツから日本への海上輪送が困難となり、完成が遷延するのではなかろうかとのことであった。

やがて昼食を済せた夕方近く、これから私達3人の勤務先となる大口前鉱業所と名前の入ったトラックが迎えに来た。
私達がこれから行く大口前鉱業所というのは、この吉林から東へ向った巨離約25kmの所にあった。

吉林人造石油周辺地図

吉林人造石油周辺地図

トラック上から見る大口前※注2までの間は、総て高粱畠と水田であった。
やがてトラックは夕刻大口前へ到着したが、この附近だけが小高い丘陵地帶で満、鮮人農家が4、5軒、固り合って各所に点在している所であった。

トラックが停止した所は大口前砿業所と立看板が玄関入口に掲げられたバラック式の建物であった。
建物内部は装飾も衝立(ツイタテ)もない広々とした所に机が10脚程あり、日本人、朝鮮人の男だけが事務をとっていた。
その奥に所長室があり、私達3人は案内を受けて所長室へ入ったが、この部屋も机1ヶあるだけの4、5帖位の部屋で所長と初対面の挨拶を交したのであった。

所長は篠原千代之助と云い年令50才位の小柄なずんぐりとした身体に眼鏡をかけ頭髪も薄く、額の禿げ上った好々爺といったタイプの人であった。

これは後に聞いた話であるが、所長は北大工学部の出で、幌内砿業所布引坑の主任を務めてから同じ北炭眞谷地砿業所の所長に転勤し、その時の商工大臣岸信介とは縁籍続きで、その関係からか、岸大臣の要請で、現在の吉林人石へ転出したということであった。

 

※注:写真出典「植鉄の旅~失われた時を探して」吉林駅

※注1:1941年(昭和16年)の85円は、現在の価値に換算すると82,000円くらいです。(※注3

※注2:「大口前」という地名については、私が考察したことをこの章の最後に記しますので参考にしてください。

※注3:やるぞう 消費者物価計算機 1902-2017

※参考画像:現在の吉林駅(画像出典:Wikipedia 昌邑区

大口前、名遙という地名についての考察(by 管理人)

この地図はテキサス大学図書館のホームページに掲載されている満州の地図をダウンロードし、私がわかる範囲で漢字を書きこんで加工したものです。

(吉林市はこの地図に載っていませんが、この地図のすぐ下(南側)に位置しています。)

この地図には大口前という地名を発見できませんでした。

しかし、国立国会図書館デジタルコレクション「決戦満洲国の全貌」という本の中の吉林人造石油株式會社のページに「煤窰大口前」という記述を発見しました。

これを見ると、大口前という地名は煤窰の一部であるか近隣にあったものと考えられます。

 

フクヲ直筆の地図中に「名遙」という地名がありますが、これは「煤窰」のことではないかと推測されます。

というのは「煤窰」は中国語で「Mei-Yao」(メイ-ヤオ)と発音するので、中国語の発音を聞いて日本の漢字(めいよう=名遙)を当てた可能性が高いと思われるからです。

私が示した地図の煤窰のすぐ近くに炭鉱(鉱山)のマークが付いているので間違いないと思います。

 

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